フンメルの室内楽曲は、彼の作曲活動期間全般に渡って作曲されていますが、特に後期のピアノ・ヴァルトーゾの時代よりは、作曲活動が一番活発だったウイーン時代、エステルハージ楽長時代にその多くが生み出されています。
 その音楽は解りやすいメロディーと単純な伴奏からなるロココ、古典派のような主題の提示から、19世紀のショパンやメンデルスゾーンと言ったロマン派時代の装飾的でかつセンチメンタルなメロディーがブレンドされたような音楽となっています。
 このピアノ五重奏はOp.87という中期以降の作品ナンバー(1822年出版)が与えられていますが、作曲自体は1816年という早い時期で、先だって出版された7重奏曲ニ短調,Op.74のピアノ五重奏版が予想以上の反響を呼んだため、未出版作品を後追いで世に出したものと思われます。

この2曲は当時のヒット作となり、このCDのカップリングでもあるシューベルトの有名な「ます五重奏」が生み出されるきっかけともなりました。シューベルトの友人・パウムガルトナーが「フンメルのような五重奏曲を」という希望をだしたのです。
 その意味では、この2曲は同時代の最も優れたピアノ五重奏曲であり、また最もポピュラーなものでしょう。
 お聞きいただければ解ると思いますが、フンメルの作曲技量、センスの良さがご理解いただけることと思います。

 このCDでの演奏は古楽器でのもので、当時の響きを彷彿させるものなのかもしれません。フンメルからショパンに繋がるピアノ曲は、装飾が多く、軽やかなタッチと主旋律を透明感ある響きで再現しなければなりません。
現代のピアノでも名演奏家はそういう演奏を聞かせてくれます。古楽器ではより明確になるはずですが、録音のためか、演奏の為か、ピアノの音が濁りすぎて聞こえるところが多々あります。

この種の古楽器演奏で演奏、録音共に優れていると思ったのは、Voces Intimae Trioの全集です。ピアノ三重奏ですが機会があれば是非。

といってもこの演奏は悪いと言っておりません。非常に丁寧に演奏されており、また楽しく演奏している様子がうかがえるものです。シューベルトのます五重奏も第一楽章から温かみと心地よいテンポで我々を魅了してくれます。

CHpt87
The Music Collection
Simon Standage violin
Peter Collyer viola
Poppy Walshaw cello
Elizabeth Bradley double-bass
Susan Alexander-Max fortepiano - director
Recorded in:
Finchcocks Musical Museum, Goudhurst, Kent
20-22 May 2013