音楽の歴史を全体像として完成させるためには、ある様式の発展の頂点に立つ作曲家のみではなく、その様式の発展の過程において不可欠であった作曲家の存在を見逃すわけにはいかないであろう。
 例えば、ショパンの音楽が如何にして「ベートーヴェン時代」のすぐ後に続いたかを説明するのは難しいが、ある範囲においてフンメルがそのギャップを埋めている。

 ショパンがフンメルを非常に尊敬していたことは、1840年に知人のピアニストに宛てた手紙の中に

「モーツァルト、ベートーヴェン、フンメルなどの偉大な巨匠たち」

と記されていることからも知ることができるが、ショパンの音楽の特徴である繊細なパッセージ・ワークと音符の構成は、フンメルの音楽の中にも多く見られるものである。
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*注
フンメルの24の練習曲,Op.125
ショパンの二組の12の練習曲(Op.12、Op.25)

フンメルのOp.89をはじめとするピアノとオーケストラの作品群
ショパンのピアノ協奏曲やその他の作品群

これらの楽曲を聴くと、ショパンがフンメルの影響を受け、かつ触発されていたことは明らかである。
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 一方、フンメルはベートーヴェンを友人として、ライヴァルとしての関係を超えたところで偉大な作曲家として尊敬していたが、その影響=ベートーヴェンの音楽の影をフンメルの音楽の中に見出すことは容易ではない。フンメルは主題と装飾、陰影というモーツァルトの音楽の世界をショパンに伝え、ベートーヴェンは、モチーフを発展させていくハイドンの世界をブラームスにつなげたという考え方もできる。

ジェフリー・ゴヴィエ 注釈:フンメルノート