Chandosというイギリスのクラシックレーベルが、1987年に発表したフンメルのイ短調とロ短調のロマンチックなピアノ協奏曲のCDがグラモフォンアワードに輝いて以来、トランペット協奏曲一辺倒だったフンメルの録音物が一気に増えた。特にピアノ協奏曲は今では全作品を聞く事ができるし、ピアノソナタや小品集、室内楽も数多く発売されている。

 しかし、メジャーなレーベルからの企画は相変わらずトランペット協奏曲のままだし、CD紹介や作曲家の研究本でもフンメルについて言及されているものは少なく、彼の音楽史における重要性は多くの人々の認めるところまでには至っていないのが現実である。

 フンメルは、18世紀末から19世紀前半にかけてヨーロッパ全域に名声を馳せたヴィルトゥオーソであった。その才能は、彼が8歳の時にモーツァルトが自宅に同居させてまで教育したことからも理解できるであろう。作品(作曲)においても有名で、300を超える作品は、ピアノ曲はもちろんだが、オペラ、カンタータ、ミサ曲、バレエ曲などの大規模作品が交響曲を除くあらゆるジャンルに並んでおり、ショパンのみならず、シューベルト、シューマン、メンデルスゾーン等の初期ロマン派の音楽に与えた影響は計り知れないものがある。

 「ピアノ奏法」は、フンメルの晩年にあたる1828年に出版されたものであるが、全三巻444ページにわたる膨大な量のこの教則本は、当時第一級の音楽界の中心にあった人物によって書かれたものとして、19世紀前半におけるピアノの演奏法を知る上でとても重要な文献である。モーツァルトの直弟子でもあったため、モーツァルトの演奏法(トリルの用法等)を理解するうえでも重要だと思われる。


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参考
Johann Nepomuk Hummel: Piano Concerto in A Minor and B MinorJohann Nepomuk Hummel: Piano Concerto in A Minor and B Minor
販売元:Chandos