ここまで、ウイーン式アクションのピアノとイギリス式アクションのピアノの特徴概要を紹介してきましたが、今回はフンメル自身の言葉でそれぞれの演奏法を紹介してもらいます。

 フンメルが1828年に刊行した当時のピアノ奏法バイブル「ピアノ奏法の理論と実践詳論」から 第三巻第4章「様々なピアノの適切な弾き方−ドイツ式(ウイーン式)アクションとイギリス式アクションについて−」全文を翻訳し紹介します。

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section1
 いかに優れた演奏者でも、慣れないアクションの楽器を弾く時にはしばしば弾きにくい思いをするものである。そのためピアノのアクションについて、少し説明をすることは重要なことと考える。

section2
 一般的にピアノには2種類のアクションが存在する。ひとつはドイツ式(ウイーン式)アクションで弾きやすいもの、もうひとつはイギリス式アクションで弾きにくいものである。

section3
 言うまでもなく、この二つのアクションにはそれぞれ特有の長所がある。ウイーン式アクションはどんな可憐で繊細な手でも扱うことができるであろう。ウイーン式アクションであれば、演奏する者は様々なニュアンスでの演奏が可能で、また敏感に明確に音を出すことができる。そのフルートのような豊かな音色は、特に大きな会場でのオーケストラの伴奏から見事に浮かび上がってくる。さらに演奏に気を取られすぎて、流暢な音の流れを壊してしまう、というようなこともないであろう。しかも、この楽器は耐久性もあり、価格もイギリス式アクションの物より半分の値段で売られている。
 ウイーン式のピアノは、その特性に合わせて扱う必要があり、腕全体の重みで鍵盤を激しく突いたり叩いたりすることは許されず、鈍いタッチも許されない。むしろ音の力強さは指の弾力のみで生み出す必要があるのだ。例えば、厚い和音はすばやく分散して演奏するのが通常であり、それが全ての音を一度に強く打鍵したときよりもはるかに効果的である。男性の手には、浅めでも薄めでもないタッチの楽器を選ぶことを薦める。
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フンメルの愛用していたウイーン式ピアノ(ワイマールフンメル記念館)

section4
 イギリス式のアクションは、音の持続性と豊かさという点ではもちろんその利点を認めざるを得ない。しかしウイーンのピアノほどには完成の域には達していないというべきである。タッチははるかに重く、鍵盤は非常に深く沈むため、連打する時にはハンマーがすばやく動作しないからである。
 このようなピアノにまだ慣れていない人は、深く沈む鍵盤や重いタッチに決して惑わされてはならない。むしろ、無理なテンポで演奏せず、いかに速いフレーズやルラード(装飾的旋律)も、いつもの調子で軽快に弾かなければならない。力強く演奏すべきところやパッセージも、ウイーン式ピアノほど多彩な音のニュアンスが備わっていないため、仮に激しく打鍵したとしても、指にもともと備わっている力強い弾力性から得られる音に比べるとより強い音が出せるという訳ではないのである。
 慣れないうちはイギリス式ピアノに少々違和感を覚えるかもしれない。特にf(フォルテ)でルラードを弾く時には、鍵盤を底まで押さえるのでなく、見かけだけにとどめなければならないからである。そうしなければ、「弾く」という行為にばかり気を取られ、完璧に演奏するための負担は倍になってしまうであろう。しかし、このピアノで「歌わせること」ができれば、その豊かな音色が長所となり、特の魅力と美しい和声を奏でることができる。
 ただし、イギリス式アクションのピアノは、小さい部屋の中では非常に良く響くのにもかかわらず、大きな会場で演奏すると、音の性質が変化し、複雑なオーケストラ伴奏を伴うときにはウイーン式ピアノほどには音が通らなくなる。私の考えでは、太くて豊かな音色がその要因であるように思われる。

(フンメル著「ピアノ奏法の理論と実践詳論」 第三巻 第4章「様々なピアノの適切な弾き方−ドイツ式(ウイーン式)アクションとイギリス式アクションについて−」より)
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 こうしてみると、フンメルはウイーン式アクションのピアノを好んでいたことが判ります。現代のウイーン式ピアノというとベーゼンドルファーがありますが、これとて現在ではイギリス式と変わらないシステムであり、ウイーン式の主流というのはないと思われます。古楽器、オリジナル楽器としての演奏のCDも多いですが、その場合はウイーン式のヴァルター製や初期のベーゼンドルファーやそのレプリカが多いですね。
 当時はもっと事情が違っていたのでしょうか? 今、ホールでの演奏会でこの手のウイーン式ピアノで演奏すると、オーケストラに音が飲み込まれてしまって、聞こえなくなってしまいます。

 ちなみにショパンもウイーン式アクションのピアノを好んでいたようで、プレイエル製、エラール製などの名前が挙がってきますね。
 
 二人の作品の共通点は、装飾が多く、繊細なメロディーが多いことでしょうか...
 

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